2011年3月2日水曜日

彼女派


 その同級生は大山君と言った。小学校のいつのときか転校してきて、中学のいつのときまでか一緒だった。こちらの方言を話さず、しかも言うことはずけずけといつも本音だった。

 あるとき由美子ちゃんと靴箱の前で遭遇した。すると、上履きを持つ手が震えた。大山君は、それを見つけて「そうなんだよな」とはっきり言う。まさしく皆その通りだったから、本人の前でどぎまぎした。見れば、大山君も生意気なことに震えていた。

 皆があこがれて、それゆえに距離を置いた。それが、本当の本物、アイドルというものだったのだろう。いい歳こいて、今でも胸がキュンとなる。

 長じて、クラスには久美子派と美智子派があった。もちろん掛け持ちもいた。 そういう対象になっていなかった彼女は超然としていた。尚且つ、未だに憤慨している。

 私は旗幟を鮮明にせず、ひたすらただひとり彼女派として尽くしたので、今がある。他の級友たちは誰一人として久美子さんも美智子さんも射止められなかった。

 遠い昔、昔の話だ。それにしてもアイドルというものはいたものだ。
勇気を持って、参戦することはなかった。
 ただ、昔から大勢には順応しようとしなかった。それがよかったのかもしれない。

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