2010年11月29日月曜日

はたらきアリさん


 片道1時間半の通勤はいつしか苦でもなくなった。本も読めるし、座れれば居眠りもできる。しかし、トラブルによってダイヤが乱れるとつらい。数日続いて起こる。過密なダイヤを安全にしかも大量の輸送に従事する人々のご苦労はいかばかりかとも思う。

 何かこの巨大な都市生活の中にいることの不思議さを感じる。そしてどっぷりと浸かりこんでいる。諦念と慣れの成せる業なのだろうか。

 アリさんとアリさんがごっつんこするような人込みを難なく歩行でき、絶妙なタッチで時刻掲示板を見上げたまま人の顔も見ず瞬時に改札を通り抜けることができる。訓練された犬のように整列に並び、解き放たれた猛獣のように席をとる。席取りゲームに負けても人生の転落ではないから、何事もなかったかのように揺られながら一路、朝は職場、夜は我が家をめざす。すべてを黙々とこなしている。いくら羽目をはずして酩酊していても二、三度の乗り換えを難なくこなす帰巣本能をも身につけている。都心で放り出されても、ひとたび真夜中であることを認識すれば、迷わずタクシーに乗車し我が家に向かい命の危険から逃れる。もう若くはない。後部座席で寝込んだところを起されても、我が家への道案内を正確に示すことができる。万札が飛ぼうとも、悔いても詮無きことと考えることができる。

 そうやって初老を迎えた私が、望む田舎暮らしをできるだろうかという疑問にとらわれている…。

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