2010年6月3日木曜日

灯火と幻想


 マッチを擦って火を灯しただけで、なんであんなことが見えるのだろう。それになんで死んでしまったのだろう、と。小さい時、確かそう思ったように覚えている。深い想像力、その情景へ思い至ることに欠けていたのだろう、今でもそういうところがある。凍え死んでしまった「マッチ売りの少女」の結末。

 そんな理不尽なハナシがあるものかと、なんとも言えぬ思いがあってそれが心の奥底に残り、そしてその思いからそれっきり逃げ出してしまっているのを感じる。そういうことを、人生で再び想い起こさせたのが2008年の派遣切り、部屋立ち退きの仕打ちだった。それに、あの冬はまた一段と寒かった。

 少女は家に帰ってはいけなかったのだろうか。親の庇護にあってそれをあたり前だと思っていた自分の境遇からは少女の追い詰められた立場や気持ちが理解できる由もなかった。人生を積み重ねるにつれ、そのことがわかってきた、帰るところが無いということを。マッチを灯して暖をとれるはずもない、でも幻想は見ることができるのだと、人生を経て来てわかるようになってきた。

 「むごいことを美しく描く」という松本善明さんのなにげない評が心に残る。作家・芸術家のちからはすごいものだ。

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