2009年10月7日水曜日

接近

風が恐い。
身体が反応する。二階に居ると不安になることがある。職場のビルではそれを感じない。

春には激しい西風が吹いた。季節風だ。東シナ海から直接吹いてくる。橋を渡れば歩けないほどだった。堤防が高くなっているので橋も水面から高いところに架かっていた。だから、ただでさえ強い風がもっと強烈に感じた。ずっと東にある東京ではこういう西からの季節風の影響は小さいはずなのに、春になればビルの谷間の構造に突風が発生することを体験した。強い風が吹けば、ときに身体が反応して恐くなる、どうすることもできない。

「中心気圧945ミリバール、南南東の風、最大風速45メートル」とか、「白墨で密度の濃い等圧線の同心円と進路方向の範囲」というのが書いてあった。今みたいに気象衛星からの写真などない。各測候所の観測の結果が集約されて描かれていたが、リアルタイムではない。どの辺に接近しているのかなと思うころは停電でテレビも見ることはできなかったから、トランジスタラジオの情報を聞いた。

台風が東シナ海の方を通れば猛烈な影響を受けた。恐さは風の強さもさることながら、我家への不安だった。迫り来る激しい風雨に耐えられず、階段のところの雨戸の無い窓ガラスは落っこちてくるのではないか、屋根が飛んでいくのではないか、家が瓦解するのではないかと幾度も子供心に恐怖心が襲った。風のごーとか、唇でまねのできるひゅ~という不気味な音、雨が叩きつけられるばらばらばらという音、部屋のあちこちで始まる雨漏り、なんとも言えぬ気持ちの悪くなる揺れ、家がみしりみしりという。どこからでも入る隙間風、さっさと始まる停電、次に来る断水。今考えてもあのような家が何年ももったものだ。戦後建てたらしい継ぎ接ぎだらけだった。実際に危険だったと思う。多かれ少なかれあのころはご近所もそんな家だった。ご近所寄り添って耐えていたようなものだった。風が吹けば、生まれ育った家での恐怖を思い出し、そして身体が反応する。

10歳も年下の石垣島のパイン生産者の話を聞けば、私の経験なんぞ屁でも無い。あら、おかしいねと思ったら屋根が吹き飛んでいたそうだ。あっけらかんとそんな話に及ぶが、怖さを通り越すような体験はといえば、南西諸島ではさもありなんと思う。私たちよりもはるかにすごい目にあった。

ふとしたことでちょっとした風でも恐く感じることがある。
最近は関東方面に台風がくるなぁと思うところだ。

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