家を出る前に湘南新宿ラインは止まっているらしいことはテレビのテロップに流れていた。
私鉄の最寄り駅から電車に乗った途端、山手線は動いていないとの車内放送、ならば休むかという誘惑にかられながら、決断ができなかった。次の駅で、乗換駅で、乗り換えた次の駅ぐらいで引き返そうかとも考えたが、仕事に対する忠節は捨ててはいないようだった。都内の終着駅に近づくにつれ、東京のJRは全て止まったとの車内放送が流れる。まるで「それでも東京に行くのか」念を押すような響きに聞こえる。終着のターミナル駅に着いたところで当ては無かった。とりあえず都内に行ってから考える。
案の定、ターミナル駅は人で溢れかえっている。で、外は台風の暴風雨が荒れ狂っているかというとそうでもない。JRの駅員らしきところに人が集まっているから、そこに辿りつくと、遅延証明書を配っているだけ。それで振替乗車券をくれというと今日は無くても乗れるようになっているという。それにしても人が溢れかえって身動きが取れない。私鉄の改札から人々がぞくぞくと出てくる。地下鉄は動いているらしい。そろそろとわずかに動く人の流れがあって、地下鉄の改札の方向に向かう。新駅があったと思うが、おおよそあのあたりということは目星がつくのでなんとか人の波をかきわけてそちらの方向に向かう。
振替乗車で改札に入れるところは詰まっている。そして地下鉄への昇降はエスカレーター化しているから、またその昇降口がネックになって人の流れがタイトになっている。1人ずつか2人ずつしか乗れぬ。まるで漏斗のようになって、その方向に向かう。普通の階段なら必ずしもこのようにはならぬと考えるが、エスカレーターの昇降口は押すな押すなとなった場合危険を感じる。また行き着く先のホームにも人が溢れればそれも危険だ。
乱れてしまったダイヤで電車が入って来て、乗れば久方ぶりの超満員。昔の赤羽線の混みようを思い出す。埼京線がないころの山手線もそうだった。地上を嵐が舞うので、首都では地下を這う電車で移動する。大袈裟に言えば、核戦争の始まった都市シェルターの中。違う言い方をすれば映画「地下水道」の気分のようだ、このまま地下にいたらどうなるのだろう。あまり地下鉄を好まず、ぎゅーぎゅー詰めの不快感もあってこう思い巡らしてしまう。
ほうほうの体で目的地の駅に着けば、乗ったときと同じく、脱出するにもいくらでもネックがある。しかも地下5階だ。この駅で降りるのはまだ2度目で、どちらの方向に我が出口があるかわからないが、○○坂口方面に目星をつけ皆の歩く方向にそろそろと並んで移動していく。ようやく地上に出てみて、周りを見回し、そして出てきた出口を振り返れば、いつも脇目で見ていた地下鉄の出入り口だった。
職場に着けば、よく着いたね、どうやって辿り着いたのと訊かれる。職場は閑散としていて、最初から休みをとっている人も多かった。三々五々人が出勤してくる、「この程度のことでJRは公共機関の自覚がない」などとぶつくさ言いながら入ってくる人もいる。さすがに茨城からの出勤組みは誰も来なかった。
休めば仕事が溜る。台風のせいでと赦されるのはどうせ今日一日だけ。溜ったとて誰もやってはくれぬ。行かねばならぬの平手造酒(ひらてみき)。帰宅の電車はいつもより空いているようでしたが、大変な一日でした。星がきれいに見えました。