2009年9月12日土曜日

リナとコータロー


 昔、9つ違いの姉が小さい私をこっそり連れていってくれて、よくおごってくれた。それがラーメンだった。おばさんふたりでやっている飲食店で、夜はなんとなく入ってはいけないお店の雰囲気があった。このラーメンの味が摺り込まれる。湯気立ち上る温かさ、濃厚な白いスープ、もやしの茹で具合、細かく刻んだねぎ、チャーシュー、胡椒の刺激、「さつまラーメン」だ。

 リナとコータローはお留守番をさせるという。お留守番といっても駅の裏にできたばかりのビジネスホテルだ。「やっちゃいましたぁ~」の非常識会見で社長がバッシングを受けたあの全国チェーンのホテルに兄たち家族は陣取った。葬儀、お寺参りが終わって、兄たちは甥っ子のレンタカーで役所・銀行まわりをする。私たちは母の部屋に残した大型ゴミの処理を受け持ち、片付く見通しなので、二人をあずかるよと申し出る。

 ラーメンでいいか、さつまラーメン食べたことないだろう。温泉入るか。姉のリナちゃんは中学一年だが見た目が幼い、コータローはでかい。母の施設の近くにたまたま私のお気に入りの専門店があった。帰れば必ず一度はこの店に立ち寄る。さつまラーメンの看板は県内かずかずあれど微妙に違う、私のイメージの味に合うのはこのお店。たまたまラーメンと焼き飯の半チャンセットがあって、それをとる。「こんなおいしいものは初めて」だとお姉ちゃんがいう。意外なそしてうれしいことを言う。神戸のお嬢さん学校に通い始めて、お葬式にはそのいかにも都会的な制服で参列していたが、聞けば3月30日生まれだという。初めて持たされた母親の携帯で、「おいしいよ」とジジの携帯にメールする。この母親と弟(この子たちの叔父)が幼い時、私は学生でお守りをたのまれよく遊んだ。「時代はめぐる」(中島みゆき)だ。

 肌をくるっと包むようなつるつるした泉質の市比野温泉に入れてあげる。お姉ちゃんは初めてで感激する。コータローは母の一字の「幸」をもらったらしい。おもしろい子だ、母親の財布でも持たされたのかと思っていたら、ひいばあちゃんの部屋のものを整理処分するときに欲しいからもらうといっていたものだった。母の遺品だった。あのときは、急いでなにもかもさっさと捨ててしまった。
 なんだこれ?あっ、それボクの…。そうかそうか、どうする、持って帰る?いい、捨てていい、いい。コータローがひいばあちゃんに宛てた便りや工作がいっぱい出てきた。優しい子なんだ。

 畳の部屋はいいねぇ、もっとゆっくりしていたそうだったが、母親は今日中に飛行機で帰るというのであまり遅れないように戻す。私の故郷の街が一望できる展望台へ立ち寄る、ここがひいおばあちゃんとおじいちゃんの街。おじちゃんの育ったところ。大きな川だろ、あっちは海だ。ふ~ん。もっと遊ばせたかったが、帰りの時間に遅れては申し訳ない。

  兄の孫、姪っ子の子。あのころの姉弟と同じ姉と弟、初めて会ったリナちゃんとコータローくん、さようなら。帰りの飛行機の中で今日の話を母親とジジ・ババにしていたらしい。

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