2009年8月4日火曜日

異人たちとの夏


イカ釣り船は夏の海の風物だ。
週末にAさんから突然イカをいただいた。

Aさんは魚屋さんには違いないが漁港の加工屋さんなので箱単位で送って寄越す。ご近所でお裾分けでもしないと食べきれない。刺身で食べて、妻殿が塩辛をつくり、丸焼き、醤油漬け、インターネットと料理書を調べてイタリアンなどイカ尽くしが続く。次男を呼べばなんの不自然さもなく厨房に立つ。

Aさんの目利きに「はずれ」はない。そのことを私が認めていることを「あうん」の呼吸でAさんはわかっている。誇りをもっている。それだからいつまでも付き合いが続く、お互いを認め合っている。

我社関係の仕事をしているの?と訊けば、しているよと応える。詳しく調べたわけではないが、下請けか孫請けに甘んじているようだ。産地は水揚げが落ちれば、何らかの付加価値加工をしていかなければ食ってはいけない。いち早く、何らかのコンシュマーパック(消費者に直接届く加工製品)をつくることだと熱心に勧めた。もう昔のことだ。当時は目先の水揚げが集中してそんなことには構っていられなかった。他の漁港をおさえて、魚を満載した漁船はひしめくように入船してきた。その期待に、浜の加工屋さんとして寝る間を惜しんで応えた。

あのころ、20数年前、食品加工場をつくっていれば今ごろはどうなっていただろう。そういうことをしなくてよかったのかもしれない。工場をつくっていれば、畢竟、さばやさんまを持って中国に進出していたかもしれない。そうしたら、「儲ける」ことはあっても、魚のプロの自信をもっているからそんな「商売」には嫌気が差していたかもしれない。もっとも、そういうことが先に見えていて、そういう道に進まなかったのかもしれない。

数年前、再訪したときはまるで「異人たちとの夏(1988年 監督:大林宣彦、出演:風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子)」だった。事務所はそのまま、働いている事務員の方(Aさんの奥さん、親戚のご婦人)もそのまま、応接台もそのまま。そのまま20年が過ぎて年を重ねていた。Aさんとの親交はまるで実家に帰ったような暖かさ。そして、あの映画のような、錯覚を感じた。

「お変わりもなく」と挨拶を交わしたものの、その瞬間、互いに過ぎし幾星霜のことを考えたに違いない。

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