2009年5月21日木曜日

爪の垢でも


 森達也さんの洒脱な著書『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』(集英社新書07年8月刊)の中(第2話「桃太郎」)にたまたま「豚インフルエンザという聞いたこともない名前の感染症が日本中に流行する」というくだりが出てくる。可笑しい。
 今朝の車内の光景は花粉症の最盛期のようなマスクマスクマースクだった。くしゃみでもしようものなら、じろりと一瞥される。私は「所構わず」のくしゃみ持ちだから、かなわない。

 ノートパソコンを買ったときに、初めてデジカメも買った。とくにどれを買いたいというものもなかったので、とっさに中田がキャラクターをしているIXYがいいかなと、ミーハ-な考えが浮かび、深く考えもせず当時日の出の勢いのキャノン製を求めた。

 そのことを2つの理由から後悔している。

 ひとつは、保証期間内にカメラが作動しなくなって買い求めたお店に修理に出したら1ヶ月ほど待たされたうえになんの説明もなくニューモデルのIXYを交換で渡された。新品を渡されたのでとっさに文句が出なかったが、どういう不具合があったのか品質保証上、説明されてしかるべきだったと考える。新品に交換すればそれで済むみたいな対応で快く思わなかった。ただ、それを追及しなかった。

 そしてふたつ目の理由は、非正規労働者への仕打ちのせいだ。

 消費者にできること「不買」、なんとかそれを実践したいのだが。今所持しているのはプリンターもインクジェットもみなキャノン製だ、からめられてしまっている。

 豊の国、大分県は九州の中にあって瀬戸内海に面している、県民は穏やかな人柄・気質の人が多いという印象がある。穏やかな人柄が商才にも長けているように考える。対岸の伊予商人ともよく比較される。

 経団連の会長でもあるキャノン会長の御手洗さんは大分の出身だということで“郷土の誇り”だった。県内に新工場を建てるにあたって、県と多くの県民は雇用拡大につながるとしてこれを歓迎し、膨大な県民税を注ぎ込み工場立地の環境を整えた。大分に知り合いは何人かいる。御手洗さんのことを批判するのはほぼタブーだった。

 今週の日曜日(5月17日)の朝10時のNHK「地方発!ぐるっと日本」という番組で「ふるさと発 おふくろ商店日記」と題した内容は秀逸だったと考える。 捏ねて手作りパンをつくった朝だった。

 NHKは大分キヤノン(大分県国東市)の工場の近くにあるお店の取材を昨年の12月から始めた。

 宮本さんというご婦人が経営するよろず商品を扱う食品店で、たまたま訪れたところ、非正規労働者が次々と宮本さんを慕って訪れてくるのに着目したためである。訪れる人は、たまたまキャノンに派遣された人、請負された人である。奄美出身の戸内さん、沖縄出身の比嘉さん、福岡県宗像出身の安倍さんらが紹介されていた。宮本さんはお客で訪れるみんなのことをまるで家族のように親身になって心配する。みな、雇い止めにあう。近所の人も「ばぁばぁは寝ちょっても心配で」と大分弁で声をかける。話を聞いてあげる、手を差し伸べる、ごくあたり前のことをしているという。比嘉さん夫婦は二人とも働かなければ食べてはいけないが男の子が生まれた。宮本さんのお店にふたりでやってきて、宮本さんは習字がうまいから子どもの「命名」を書いてほしいとたのむ。安倍さんは福岡の親元に帰っていく。戸内さんは次の就職先がなかなか決まらない、はらはらさせる。

 地域の人が支える姿が淡々と描かれる。自立への励まし。支えがあれば人は頑張れる。

 戸内さんはようやく塗装業の親方夫婦のところに面接で採用され、アパートを引っ越して行く。

 なんで、人は他人に親切にできるのだろう。つめの垢でも煎じてお偉い“郷土の誇り”氏に飲ませてあげたい。

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