2008年9月2日火曜日

OPEN FORUM参加録 その2


例外なくエビに忍び寄る病気の危機、シドアルジョという世界的にも有名な産地はSOSを発していましたように思います。民衆交易の出番(人の投入)と、技術と専門性の検討の投入も必要です。のんびりしておれないというのが所見です。この病気はへたをすれば産地をまるごと潰滅させます。種苗が、もはや、たくましい天然ものではありませんでした。生産を取り巻く環境が都市化のなかで悪化しておるように見受けられます。収穫量をかなり落としているように聴きました。そのようなことも背景にあって「内紛」にも及んだような印象をもちました。より深い対話が必要です。生産者のひとりは日本側(代表団のこと)のモラルを感じると言っていました。
 
右は富士山かと見間違うような山:スメル山3,676mだと思う、機中から撮影。

私は今、「所見」をあらためてまとめてみました。

ひとことで言うと「危機が忍び寄っているな」という心証でした。
「エビから世界がみえる」ということです。

さまざまな事象の再確認をしつつ、より一層、現地のみなさん(生産者、ATINA社)との対話を重ねることが肝要と認識しました。

生産者と工場とそして理念を守らなければなりません。
私達自身のためにも。


伝統的えびの粗放養殖の危機、それは以下の2点です。

1) 忍び寄る病気 ⇒ 産地シドアルジョの危機 
2) 「食べる国」の食の変化 ⇒ ブラックタイガーという品種の危機(以下B/Tと略す)

現場(池)でもFORUMでも生産者が訴えていましたのは次のようなことでした。
1. 生産量(反収にあたる)の激減
2. 病気への対処の苦難(伝統的な対処でもできない、土や水の分析を日本で支援して)
3. 価格への正当な評価を
4. 環境をよくしたい
5. もっと話し合いを、池に来て


1) エビの病気と産地
1980年代後半から90年代前半の10年間にかけて、台湾・中国・タイの有力産地が相次いで潰滅しました。病気による大量斃死のためです。
エビを買い付ける側の日本はそれらの産地を捨てて、他へ移ったまでのことです。それはベトナムであり、広大なインドネシアの未開の島々でした。ベトナムのメコンデルタはほとんど手付かずの豊かなエビの産地でした。またインドの天然エビの漁場開発をします。

そして、どうしても斃死のリスクのあるB/Tはやがて見捨てられ、バナメイという種類になる。このエビは比較的病気に強く早く育ちます。しかし、B/Tほどおいしくなく、小さい。

そうして、開発の方法もより大掛かりになります。台湾方式の社会分業型、家内工業型ではなく、大資本による首尾一貫した垂直型の生産方式になります。つまりエビの交配から、孵化(ハッチェリー)、養殖、飼料生産、加工輸出までやってしまう「フルインテグレーション」という方式の採用です。

これがこの20年間の流れです、そうして現在に至っています。

インドネシアのスラウェシ島での日系企業による大型開発の事例、また中東における財閥企業とのジョイントの超大型開発(「紅海の海水養殖エビ」と呼ばれる高級なエビ)の事例も始まっています。

2) 食の変化とエビの品種
 B/Tはバナメイより確かにおいしいのですが、それは焼いたりボイルにしたりすると顕著にわかりますが、そのようにしてエビを食べる日本の家庭は少ないと考えます。利用方法はフライ、天ぷら、チリソースなどがあると考えられますが、味は衣や味付けにも左右されます。それも、加工済み或いは調理済みの冷凍食品が求められています。例えば「フライ用衣つきエビ」です。
 人気が出てきたのが、たっぷりエビの入ったカツレツです。それに求められるのはふんだんなエビの数です。味付けは衣でできますので、エビが旨いかどうかはあまり問題ではありません。バナメイはそれに適合し、B/Tは高くて適しません。
 おいしさで優位のB/Tといえども、必ずしもマーケットにいつまでも適合しているわけではありません。

3) 産地シドアルジョ、伝統的えびの粗放養殖産地の危機
 病気はうつります。元気で体力のあるはずのエビも水質・水温などの環境が悪化すれば耐えられません。
 他の集約型養殖の産地が次々と潰滅、後退していったのに、シドアルジョ、グラシックのような数百年も続く伝統的な粗放養殖産地が健在なのは自然と調和し、自然の力を借りるその素朴な生産方式の健全さにあるのではないかと考えていました。つまりエビにチカラがあると。確かにそうでしたから21年ぶりに訪れても産地は健在でした。
 
しかしながら、病魔と自然環境の悪化の影響は例外ではありませんでした。インドネシア第2の都市スラバヤに隣接する産地の都市化の波は押し寄せていました。インドネシアも工業化にひたすら走りました。車とオートバイと工場の数は見た目にも増えていました。下水道の整備や環境汚染防止が十分にとられてきたとは思えません。

この産地の収穫の激減の傾向は、①稚魚が弱くなった②水温の変動(高くなっている)がある③川の水の質が悪くなった(水質汚染)④水質の酸性化ではないかと生産者自身が分析していました。彼ら自身、「テクノロジー」のやりかた(抗生物質の投与か)よりも、伝統的な生態系によい方法でやりたい、何が水を悪くしているのか目を向けたいと表明しています。

自然の海水、汽水、川の水を利用するこの養殖方法は環境保全がなによりも大事なこと。ですから、ここの生産方式を持続、発展させることは、突き詰めれば「私たち自身の問題」にも通じるのです、「エビから世界がみえる」のです。 ~つづく~

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

おはようございます♪
色々な問題が絡み合っているのですね・・・
「エビから世界が見える」
ほんとその通りです。
つづき 楽しみにしています。
ありがとうございました。

匿名 さんのコメント...

地球環境が待ったなしの状況になった今は、エビの生産ひとつをとっても「グローバル」に問題を捉え解決することが必要なんだと感じました。
私たちは「消費者=消費する者」で納まってはいられない時代に突入しているんだ。食糧と地球を次代にしっかり手渡すためにも考える消費者にならなければ・・

匿名 さんのコメント...

粗放生産者の苦衷、よく理解できます。たぶん一種の連作障害なんじゃないでしょうか。もしこれが、野菜類ならあきらかにそうです。いったん、生産を1~2年中止してみればなにか変化が生まれると思います。
連作障害は一定の偏った微量の土壌物質が連作のために失われて、バランスが崩れるために生じます。
水中ならば、植物プランクトン⇒動物プランクトン⇒各種の水中微小生物などの連鎖が崩れているのではないかと推察します。また連作により、必ずこれも偏った病気が累積していきます。この双方の原因により生産量の激減などが生まれた可能性はあります。私はエビの素人ですのでご参考までに。