2008年7月7日月曜日

「協同組合」らしい漁協


 全国で漁民と統計される人たちはわずか20万人そこそこです。老齢化、後継者不足の事情は農業と同様で深刻です。にもかかわらず、沖縄県の恩納村(おんなそん)漁協は若い漁師さんの多くいる漁村でした。モズクなどを生産している元気な漁協さんです。

 モズクの生産量は沖縄県だけで2万トン、実はこれは過剰気味です(08年は生産調整をしようとしたみたいですがあまりうまくいかなかったと聞いています)。今では日配売り場、鮮魚売り場の定番です。カップに入った「モズク酢」のさまざまなアイテムで、もうお馴染みでしょう。とくに日本海側のモズクは風情のあるものだったと思いますが、昔は、料亭や割烹の、あるいは飲み屋で出てくる「付き出し」だったと思います。ですが、これほどお茶の間にポピュラーな品目になったのはここ30年ほどです。苦労の末、養殖の産地が沖縄県全体に形成されたこと、山陰のあるライバルメーカー2社がそれなりに切磋琢磨して商品開発をして、売り出してきたこと、これらのおかげだと考えています。

 もともとは、奄美大島の瀬戸内町にある鹿児島県水産試験場でモズクの養殖技術が開発されたのが始まりだそうですが、設立されたばかりの恩納村漁協の若き経営者たちがここに学び取り、1977年には養殖収穫に成功しました。この漁協はこの技術を開放し沖縄県全体に普及しました。もともと沖縄県そのものは天然のモズク、南方系の太いモズクの産地です。本土系の細いモズクもできるところです(南限)。塩モズクとしての商品はずっと以前からありましたが、これをもどして「酢モズク、モズク酢」として且つカップに入れるなどして個食化した商品は先の山陰の加工メーカーの商品開発と営業の貢献に負うものがあります。そしてなによりも両者(産地と加工メーカー)の関係の構築によるものが大きいと思います。

 当時の恩納村漁協の若き経営者たちは何故「モズク」に着目をし、どういう経過を経たかということです。恩納村は沖縄本島中北部西海岸に立地し、海岸線は約45km、リーフ、イノー=礁池、干潟で成り立ちます。他の漁協から独立して新しい漁協をたちあげるにあたって、「生業を何に求めたのか?」というお話を聞きました。ほぼ真っ直ぐな海岸線は「さんご礁由来の自然のプール状態」です。この海岸線を生かした栽培事業を当時の先進的産地見学からの結論は「餌を与えるような海洋養殖はしない」その理由は「海を壊すから」ということだったといいます。そして昔からの産物に基づく海藻養殖(もずく、あーさ)と、しゃこがい養殖に特化しよう、と。
 経営者は言います、当時の長老達が若い我々の意見を尊重してくれた、やりたいようにやらせてくれ、支持してくれたからだと。ただ、海藻養殖は漁域保全がなければ存立しない、「海域を守ろう」は文字通り死活問題となります。那覇に近い有名なリゾート地で何故、養殖が成り立つのか、どう取り組んだのかということです。ホテル側との排水規制への合意、「美(ちゅ)ら海」は両者にとっても根源的資源でした。また漁協にとっても観光漁業も重要な資源でした。その両立の道は、最初から平坦ではありませんでした。その話はなかなかの武勇伝もあるのです。

 軌道にのってきた80~90年代でしたか、こんどは県全体でも、赤土流出被害を経験します。この未曾有の危機でまた、「組織」をつくり組織でまとめていこうという機運が高まったそうです。赤土流出被害の防止・克服の取り組みはまた組織を成長させていったそうです。

 恩納村漁協はモズクの養殖方法(中間育成方式)の技術を開放することによって沖縄県における先進的役割を果たし、沖縄県のモズク養殖のメッカとなります。普及するだけでなく、モズクの種(胞子)の自前の生産、さらには高品質モズクの開発と生産(本土の加工メーカーさんとの共同開発)という「開放しつつ競争力の保持」というチカラをもっているようです。また実際の商品供給の実践から、漁場、漁船、荷揚げ場、加工場における組合員自らによる品質管理につながる実践、環境保全の実践、生産責任の明確化と切磋琢磨の気風・実践を積み上げているところも、先進的な取り組みです。

 ですから、私にとっては出遭ったことのないほど若い漁師のいる漁協でした。それは、後継者の若者にとって魅力のある収入が見込まれ、生き甲斐と生まれたウチナーでの就業ができる仕事になってきたからだと考えます。一方で潜水作業が主力のモズク養殖は体力がないとできない労働です。若者が引き継がねば、成り立ちません。
現在、 オニヒトデ駆除の取り組み(未然防止への研究、取り組み)、さんご増殖のとりくみ(これはエコ/ブルー・ツーリズムにも関連付けた方向を模索) 、干潟保全、漁場機能回復の取り組み 、などなどにも取り組んでいます。
 ですから、「協同組合」らしい漁協だと、パートナーの加工メーカーの経営者の方はそう評価して紹介してくださいました。
  
 この漁協は漁場=海域保全のための対話・提案・管理の実践経験の蓄積が評価されて、07年「全国豊かな海づくり大会」での顕彰(農林水産大臣賞)を受けられたそうです。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

なるほどなぁ。こういう漁業と観光が一致して海を守るというのはほんとうにいい。
大体が敵対してしまう。
私が住んで居た頃も、高速のけんせつパイン畑からの赤土の流出でひどくなりかかっていました。